今までに見た中で一番恐ろしい映画を聞かれたら、私は迷わず答えます。

「マレーナ(Malèna)」

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「リング」でもなく、「呪怨」でもなく、「13日の金曜日」でもなく、「IT」でもなく、「牡丹灯篭」でも「四谷怪談」でもなく、
「マレーナ」です。

 

「マレーナ」は、私が尊崇する現代を生きる絶世の美女、イタリアの至宝、モニカ・ベルッチ(Monica Bellucci)様主演のイタリア映画で、2000年に公開され、アカデミー撮影賞、アカデミー作曲賞にもノミネートされた名作です。

 

この映画の何が怖いかというと、集団心理が引き起こす人々の愚行、そして嫉妬、羨望といった人間の醜い本質を、戦争下という特別な状況ではあるものの、そこで暮らす人々ごくありふれた日常を通してリアルに描いていているということです。

この映画を見る人たちは、マレーナという女性に心を寄せ、レナートという少年の純粋さに心打たれながらも、村人たちが見せる醜さの中に、嫌でも自分を見つけてしまうことでしょう。

 

舞台は1940年代、第二次世界大戦中のイタリア・シチリア島。

ムッソリーニによるファシスト政権が支配していたイタリアは、1939年第二次世界大戦勃発当初は「比交戦国」を宣言していたものの、1940年9月北アフリカへ侵攻、同年9月27日、日独伊三国同盟を締結します。

しかし、イタリア軍は地中海でのイギリス軍との戦闘に苦慮し、ドイツ軍の介入を受けることとなります。

 

やがて国内では反ファシズム、反ムッソリーニの気配が強くなり、ムッソリーニ政権もその力を失っていきます。

そして、1943年7月10日に連合国軍がシチリアに上陸すると、ムッソリーニは首相を解任され、さらに9月に連合国軍がイタリア半島へ上陸すると、イタリアは9月8日に無条件降伏し休戦協定を締結、10月13日には連合国側に立ち、今まで同盟関係にあったドイツに宣戦布告します。

 

学校で習った日独伊三国同盟、なのに、敗戦国としてのイメージが強いのは、ドイツと日本。

ドイツが降伏したのが1945年5月、日本が同年45年なので、イタリアはその間連合国軍側であり、つまり戦勝国というわけです。

 

シチリアの美しい景色
シチリア・タオルミーナにあるギリシャ劇場(Il Teatro Greco)

 

1940年に参戦してから43年に無条件降伏するまでの約3年間、ファシズム、ドイツ、連合国軍と目まぐるしく情勢の変わるイタリア――この映画は、モニカ・ベルッチ演じるマレーナという美しい女性をめぐる、人々の嫉妬、羨望、劣等感と優越感が交錯する屈折した感情、集団心理といった、誰の中にも潜む人間の愚かで醜い本質を、マレーナに恋い焦がれるレナートという12歳の少年の目を通して描いています。

 

これは思春期の少年が年上の女性に恋焦がれる様子を描いた作品でもあります。
青少年にはふさわしくないシーンもあり、そういうのが苦手な方には不向きな作品かもしれません。

 

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12歳の少年レナート・アモローソは、27歳の美しい女性マレーナ・スコルディーアを一目見たときから、その虜となってしまいます。

 

マレーナを見つめる中で、レナートは、村の大人たちの、マレーナへの羨望、嫉妬、情欲という様々な悪意のこもった眼差しに気づきます。
男性たちはマレーナを見つめていやらしい言葉を囁きあい、女性たちは「娼婦のような恰好で男を誘っている」と陰口をたたきます。

 

少年は教会の聖人に蝋燭を灯し、お願いをします。
「村の人たちからマレーナを守って」

 

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余談ですが、「マレーナ」というのは、聖人「マグダラのマリア(Maria Magdalena)」(イタリア語で「マリア・マッダレーナ」(Maria Maddalena)」)に由来する名前です。

「マグダラのマリア」が娼婦だったかどうかは見解がわかれますが、「罪深い女」であるが「キリストにより救われた」というイメージは強く、この映画の「マレーナ」は「マグダラのマリア」を強く意識したものなのかもしれません。
ちなみに、モニカ・ベルッチはキリストの受難を描いた映画「パッション(The Passion of the Christ)」(2004年公開)でも「マグダラのマリア」を演じています。

「マグダラのマリア」を題材とした絵画は多いですが、私はこの絵が一番好きです。これは、イタリアのルネッサンス初期の画家カルロ・クリヴェッリ(Carlo Crivelli)の作品で、現在アムステルダム国立美術館に所蔵されています。

Mary Magdalene by Carlo Crivelli
Licensed under “Public domain”, via Wikimedia Commons.

 

シチリアの美しい景色の中で、少年の初恋をコミカルに、情景たっぷりに描きながらも、人間の残酷さ、あさましさ、醜さ、そして美しさを描いたこの作品は、間違いなく名作です。

 

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マレーナの衰えを見た途端、これまでの態度を翻し優しく接する村の女性たち――きっと、みなさんの生活の中でもこれと似たようなことは多いのではないでしょうか。
仕方ありません。
人は、人との関係の中で生きているのですから、どうしてもその中で優位な位置に立ちたいと思うものです。
そしてそれは、向上心――勉強を頑張る、練習に励むといったプラスのエネルギーにつながることも多いです。
ただ、それでもなかなか結果が出ないとき、どうしようもないほどの劣等感に苛まれることもあります。人がうらやましく、妬ましく感じるときだってあるでしょう。

ただ、どんな状況にあっても、感情や周囲の人たちの悪い雰囲気に流されることなく、品格ある行動を心掛けたいものです。