花の陰 あかの他人は なかりけり
これは、小林一茶の有名な句の一つで、私が大好きな句でもあります。
この句については、以前「花の陰~小林一茶を想う~」の記事でご紹介させていただきました。
今年は桜の開花が例年に比べて早く、今週末には満開を迎えるようですね。
ただ、雨の予報もあり、天気が心配されています。今日は、桜にちなみ、俳句についてお話してみたいと思います。(ちょっと強引……)
俳句というのは、五・七・五の十七音から成る日本語の定型詩で、世界最短の定型詩とされています。
もとは「俳諧」といわれるものの一部でした。
「俳諧」とは、発句(ほっく)や連句(れんく)といった形式の総称で、複数人で続けて句を詠みあう遊戯の一つです。
現在、松尾芭蕉や小林一茶の「俳句」として知られているものは、どれも「俳諧」の「発句」として詠まれたものです。
松尾芭蕉は、この「発句」の独立性、芸術性を高めた人物です。
しかし、「俳句」の登場は、明治時代の正岡子規を待たなければなりません。
正岡子規は、「俳諧」から「発句」を独立させ、「俳句」と名付けました。
現在は、五・七・五のものを全て「俳句」と呼びがちですが、実は違うものなのです。
この俳句、五・七・五の十七音という短い文章の中で、季節、情景、思い、香り、音等、様々なことが表現され、まるで目の前に広がる風景であるかのように、聞いた人の想像をかき立てます。
これは情操教育にも良いということで、「俳句」教育は、現在、日本の学校教育、生涯学習の現場でも取り入れられています。
外国でも「HAIKU」としてよく知られており、俳句の国際大会があったり、学校教育に取り入れられたりしています。
英語俳句は、3行17音節で構成されるのが典型的ですが、16音節以下のものも珍しくないようです。
英語俳句においても季語(season word)、切れ(cut)を入れるのが通則とされていますが、日本人の私たちから見たら、かなり自由な感じがします。
俳句が外国に知られた19世紀から20世紀初頭、俳句は一部の詩人の間で関心が高かったようですが、その後、学習院大学で教鞭をとったレジナルド・ブライス(Reginald Horace Blyth)が著した『俳句Haiku』が外国で紹介され、それがきっかけで、広く一般の方にも知られるようになりました。
私たちがよく知る日本の句が、英語ではどのよう翻訳されているのか、少し調べてみました。
例えば松尾芭蕉の有名な句、
古池や 蛙飛びこむ 水の音
これは様々な方によって、様々に英訳されています。
私たちがよく知る小泉八雲(Patrick Lafcadio Hearn)氏は、
Old pond
Frogs jumped in
Sound of water.
小泉八雲(Patrick Lafcadio Hearn)
と訳しています。
私たち日本人にはあまり重要ではありませんが、この句を英訳するとき、蛙を一匹ととらえるか、複数ととらえるかで、印象は大きく変わるようです。
ま、日本人の方で、この句を聞いて、複数の蛙が一斉に池に飛び込む姿を想像する方は少ないと思いますが、、、
アメリカの日本文学者であるドナルド・キーン(Donald Lawrence Keene)氏の英訳は特に有名です。
The ancient pond
A frog leaps in
The sound of the water.
ドナルド・キーン(Donald Keene)
アメリカの映画監督であるハリー・ベン(Harry Behn)氏は、
An old silent pond…
A frog jumps into the pond,
splash! Silence again.
ハリー・バーン(Harry Behn)
「再び静けさが戻る」と訳すことで、蛙が飛び込む水の音から感じられる静けさを表現しようとされています。
この3名の英語訳、それぞれ印象が違いますよね。
他にも、“Aye” と驚きを表現した言葉を入れたもの、“plop”と水の飛び込む音を入れたもの等、いろいろな工夫がみられます。
訳す方によって、その方が、その句、その言葉、その響きに、どのような印象をもたれたかわかり、とても面白いと思います。
そして、冒頭でご紹介した私の好きな小林一茶の句、
花の陰 あかの他人は なかりけり
これはどのように英語訳されてるのかな?と思い、調べてみました。
アメリカの英文学者で俳句作家でもあるデイヴィッド・G・ラヌー プロフィール(David G. Lanoue)氏は、小林一茶の二千句を超える膨大な句を英訳し、インターネットでデータベース化し、紹介されています。
cherry blossom shade–
no one an utter
stranger
デイヴィッド・G・ラヌー プロフィール(David G. Lanoue)
彼のホームページ「HaikuGuy.com」は、とても面白いので、興味のある方、是非訪れてみてください。
「HaikuGuy]は、本も出版されています。
「HaikuGuy.com」トップページ
「HaikuGuy.com」日本語ページ
ハイク・ガイ(著)デイヴィッド・G. ラヌー
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小林一茶の残した句はとても多く、そのほとんどを日本人でも知らないのに、
外国の日本文化マニア、恐るべし!!、、、ですね。
俳句への強い愛情が感じられます。
俳句は日本の文化なので、それをそのままの雰囲気で外国語に訳すことは、ほぼ不可能だと思います。
私たちが日本語で触れている外国の文化も同じなのでしょうね。
文化は、伝統的な形で継承されつつ、一方で、時代を反映し、日々変化を続けていくものでもあります。
日本の伝統的な文化を、外国の方達が、それぞれの国で、それぞれのスタイルで楽しんでいるというのは、とても楽しいし、嬉しいことです。
松尾芭蕉も、小林一茶も、
まさか自分の句が遠い異国にわたり、全く知らない言葉でいろいろと楽しまれることになるなんて、全く想像もしていなかったでしょうね。
David G. Lanoue さんの他の著書もご紹介します。
ゆっくり読んでみたいと思います。
Haiku Wars (英語)
(著)David Lanoue
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主人公のPoet(人名?詩人?)は、ニューオリンズで俳句の会議で行方不明になってしまった貴重な原稿を探さないといけなくなります。彼は、賢いペットのフェレット、オスカー(本の語り手)に導かれ、様々な詩人と交流していきます。はたして結末は、、、?
Pure Land Haiku: The Art of Priest Issa (英語)
(著)David G. Lanoue
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小林一茶について説明をしている本です。