以前「小説『ミニチュア作家(The Miniaturist)』のご紹介」でもご紹介しましたが、私は「AXNミステリー」チャンネルが好きで、よく見ています。

そこで現在放送しているドラマ「家政婦は見た!」に、最近ハマっています。ほんと、おもしろい。

また、ドラマで主人公が飼っている仔猫の「はるみちゃん」が本当にかわいいんです。(シリーズが進んでも何故か歳をとらないんですけどね。)

(写真の仔猫とドラマの「はるみちゃん」とは関係ありません。)

「家政婦は見た!」は、2019年6月から7月にかけて、BS・CS6チャンネルが共同企画として実施した「あなたの好きな2時間サスペンス」で、人が死なない作品であるにもかかわらず堂々の一位を獲得しました。ちなみに、二位は「浅見光彦シリーズ」、三位は「金田一耕助シリーズ」ということで、この結果を見ても「家政婦は見た!」という作品のすごさがわかります。

ドラマ「家政婦は見た!」について

「ごめんくださいまし。大沢家政婦紹介所から参りました。ごめんくださいませ~」

このフレーズで有名なテレビドラマ「家政婦は見た!」は、1983年から2008年までテレビ朝日系「土曜ワイド劇場」で放送された、市原悦子さん主演のテレビドラマシリーズで、全部で26話あります。

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大沢家政婦紹介所から上流家庭に派遣される主人公、石崎秋子が、そこで働きながら、華やかさに潜む人々の様々な思惑や欺瞞を観察し、ある程度全容が見えてきたところで、家族全員の前でそれを暴き、「この一見華やかな業界が、実は汚れきった世界だということがよくわかりました。私、これでお暇させていただきます」と一方的に契約解除をして去って行く、というのが、主なストーリーです。

派遣される上流家庭は、政治家、外交官、ファッションデザイナー、病院など様々で、そこで起こるスキャンダルや人物設定などは、放送当時の世相を反映させているものが多く、当時を懐かしく思う方も多いのではないでしょうか。

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家政婦、石崎秋子の目線は、視聴者の大半を占める中流家庭の人たちの目線でもあります。いわば石崎秋子は視聴者を代表して上流家庭に潜入し、その華やかさとそこに潜む欺瞞とを観察しているのです。

家政婦紹介所の所長である大沢キヌヨに「覗きはあんたの悪い趣味よ」と指摘されたとき、秋子は堂々と言い放ちます。

「趣味じゃないわ、生きがいなの」

政治家の家庭に派遣されているときには、「国民の税金で生活する彼らの実情を知ることは国民の義務である」と力説し、出勤するとき家政婦仲間に「国民の義務を果たしてきます」と宣言する姿は、頼もしさすら感じます。

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このドラマをあまり知らない人は、家政婦、石崎秋子が幸せな家庭をめちゃくちゃに壊して去って行くようなイメージを持ってるかもしれませんが、実は派遣される家庭は最初から崩壊が始まっています。それを見栄と欺瞞とで飾り、絶妙なバランスでなんとか優雅さを保っているのです。

「どんなに幸せに見える家庭にも、不幸は必ずあるのよ」

「どんな家庭でも、私がこの指先でちょっとつつけば、そこから簡単に崩れていくの」

もちろん現実の上流家庭が全て崩壊しているわけではありませんが、人々は石崎秋子の目で自分とは違う世界の人々の生活を見ることで、その実情が実は自分たちとさほど違いが無いことを感じ、そこに親近感と安心感を得ているのかもしれません。

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ただ、事情はどうあれ、余所の家庭の実情を暴いた報いは必ず受ける設定となっています。

物語の最後、秋子は階段から落ちたり美容パックで顔がかぶれたりして、必ずといっていいほど大怪我をします。そして、その負傷した身体を引きずるようにして、次のターゲットとなる勤務先を訪問するところで、ドラマは終わるのです。

「ごめんくださいまし。大沢家政婦紹介所から参りました。ごめんくださいませ~」

新しい勤務先となる上流家庭には、いったいどのような秘密があり、そして秋子はそれをどう暴いていくのでしょう。

ドラマ「家政婦は見た!」に見る生きるためのヒント

石崎秋子は、実直でとても真面目な人物です。

自分とは違う華やかな世界を見たとき、大抵の人は悲観的になり、普通に働くことが嫌になると思います。また、そういう世界に身を置くことで、あたかも自分が上流階級の仲間入りをしたかのように錯覚し、本来の自分を見失ってしまう人も多いのではないでしょうか。

しかし、秋子は、その華やかな暮らしの中に入りながら、それを羨むことはあっても悲観することはなく、また自分を見失うなうこともなく、一生懸命に働きます(観察しながら)。そして、決して自らの人生観、正義感、金銭感覚を見失うこともありません。

また、政治、ファッション、外国語など、派遣先のことをとてもよく勉強し、その内容を家政婦仲間に講義しています。その姿には、「その家庭で働く以上はその業界のことを知らなければいけない」という秋子のプロ根性が見られると同時に、彼女の向上心、好奇心の強さを伺うこともできます。

そして物語の最後、流れるエンディングテーマの中「働かなきゃ、稼がなきゃ」と呟きながら、負傷した身体を引きずるようにして新しい勤務先に向かう秋子の姿には、哀愁と同時に、いじらしさも感じます。

私たちが石崎秋子の働く姿勢から学ぶことは、とても多いのではないでしょうか。

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 ドラマ『家政婦は見た!』の原案は松本清張の小説『熱い空気』

『家政婦は見た!』の原案となっているのは、1963年に発表された松本清張さんの『熱い空気』という小説で、短編集『事故-別冊黒い画集1』(文藝春秋新社)に収録されています。

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そして、1983年7月2日に市原悦子さん主演で放送されたドラマ『松本清張の熱い空気-家政婦は見た! 夫婦の秘密「焦げた」』が好評で、それがシリーズ化されたのが、この有名なテレビドラマシリーズ「家政婦は見た!」なのです。

これも先日AXNミステリーで放送していましたが、作品の古さを感じさせない、とても面白い作品でした。そして市原悦子さん、若い。赤い服がとてもよく似合い、まるで「お嬢さん」のようでした。

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ただ、一話目となる松本清張さん原作の作品と、オリジナルとなる二話目以降の作品とでは、登場人物やストーリー展開に大きな違いはないものの、その設定には若干の違いがあります。これは、『熱い空気』の人物設定をそのまま引き継いだ続編の制作を原作者が拒否したためなのだそうです。

<第一話(松本清張原作)と第二話以降(オリジナル)との設定の違い>

  第一話 第二話以降
主人公の名前 河野信子(こうののぶこ) 石崎秋子(いしざきあきこ)
年齢 32歳 不明
結婚歴

あり、夫の不倫が原因で離婚、子どもはいない

あり、夫の不倫が原因で離婚、子どもを幼くして亡くしている

勤め先 協栄家政婦紹介所 大沢家政婦紹介所
主人公の性格 寡黙であり、同居する家政婦仲間ともあまり話さない おしゃべり
派遣先での主人公の行動 子どもに悪事をそそのかす、夫の浮気を妻に気づかせる、妻にそれとなく不倫を唆すなど、かなり積極的に派遣家庭を崩壊に導いている 基本「観察」のみではあるが、その内容は、盗聴、尾行、聞き込みなど、まるで刑事や探偵のように積極的なもので、しかもその技はプロ級

 松本清張さん原作の河野信子は、他人の家庭を次々と見て回り、その家庭の不幸を発見するのが愉しみという、なかなかに悪い女性という設定です。

悪い女性とはいっても、積極的に悪事を働くような悪人ではありません。もともと悪いことをしている人たちの背中を信子はそっと押し、家庭を本人たちの手で自ら崩壊させていくよう仕向けているだけなのです。そもそもその家庭の人たちにやましいところがなければ、信子は手を出すことはできないのです。

しかし、どの家庭にも必ず不幸はある。そして、それを信子は超人的な観察力で見つけ、指先でちょっとつつくのです。

「信子は咽喉の奥からく、くくく、と笑いを洩らした。おかしくておかしくてならなかった。今や平和な家庭が崩壊に瀕している。大学教授という、びくともしそうにない堅固な家庭が根底からゆすられている。女にとって家庭は城だというが、その城のいかに脆いことよ。ちょっと風が舞込んだだけでも、もう軋りを立てて崩壊の音を聞かしているではないか。ここに一人の不幸な女が出来上がろうとしている。つまり、信子と同じ仲間が増えたのだ。彼女はそう思うと、肩の上が急に軽くなった。自分自身が一段と大きくなったように思えた。他人の家庭に入って働くのは、これだから愉しい。(小説「熱い空気」からの引用)」

うう、怖い。

怖いけど、なんか、わかりません? 誰にでも、多かれ少なかれこういう感情はありますよね。

松本清張さんの「熱い空気」は、過去4回テレビドラマ化されています。

1966年版では望月優子さん、1979年版では森光子さん、そして1983年版が市原悦子さん、さらに2012年版では米倉涼子さんが演じています。

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米倉涼子さん主演の「熱い空気」は他の作品と設定が大きく異なっており、主人公の河野信子は相当な美人であるが、それを眼鏡やマスクで隠し、さらに醜くみせるメイクまでして働いている、という設定となっています。

そこで、原作はどうなんだろうと思い、読んでみました。

はい、米倉涼子さんではなかったです。

ただ、河野信子、石崎秋子というキャラクターの魅力に、美しいかどうかはあまり関係がありません。

しかし、ともすると嫌われキャラともなりかねない河野信子、石崎秋子という女性を、独特の雰囲気で演じ、国民から愛されるキャラクターに仕上げていった市原悦子さんの女優としての素晴らしさには感服します。

物語の最後、大沢家政婦紹介所の所長、大沢キヌヨは、元気よく大声で家政婦たちを見送ります。

「今日も元気で頑張って!」

その清々しい朝の空気のもと送り出される家政婦たちのように、私たちも「明日からまた頑張ろう」と前を向くことができる、ドラマ「家政婦は見た!」には、そんな不思議な力と魅力があるような気がします。