魂を映す人形「人形工房三月」

私は、美しいものが大好きです。
人形を怖いという人もいますが、私は純粋に美しいと思います。

人形って、一言で言ってもいろいろあります。
リアルに人を映したようなものから、キャラクターチックなかわいらしいものもの、お雛様のような儀式的なもの、いろいろなスタイルの人形が私たちの生活を彩っています。
ときどき思うんですよね。
最近話題の、脳だけで生きるアバターの世界、来なさそうで、実は近いかもしれない、都市伝説のような近未来。
人間は、故障したり老いたりする不自由な肉体を捨てて、脳だけで、別の空間で生きる。
そんなの、生きてるといえない、という意見もありますが、どうでしょう。

私たちは、大勢で生活をしていますが、それぞれが自分の脳が映す世界を現実としてとらえ、生きています。
一つの事象を十人が見たとすれば、そこには十個の異なる現実ができあがります。
同じ内容の映画を見ても、人のそれぞれの脳をその情報が通る段階で、それぞれ違う形になります。

朽ちていく実体があるか、それとも、純粋に脳が映す世界で自由に生きるか。

まあ、一周回って、実体を持ったまま幸せに生きるというのが、一番の贅沢、となってくるのかもしれませんが、ガンダムのコロニーで暮らす庶民と、地球で暮らす富裕層といった感じの、、、

このアバターの世界、人の考えることは今も昔もたいして変わらないようで、昔の人たちは、人形に自分を映すことを考えていました。
呪術的なものから、もっと身近な、自分の生活に彩りを添えるものまで、その姿、スタイルは様々です。
アバターと違って人形は朽ちますが、でも、人々が失っていく若さや幸せだった頃の思い出を、ずっと同じ姿に残し続けます。

昔読んだ、西澤暁さんの「人形工房美月」という漫画で、とても大好きなお話があります。

人の魂を映した不思議な人形を作ることのできる主人公三月。
ある老いた芸妓さんと仲良くする三月。
「この人はとてもいい女だよ」
しかし、まだ若いお弟子さんは、その言葉を理解できません。
そんなお弟子さんに、その芸妓さんは言います。
「いい男におなり」
やがて、芸妓さんは、自分の寿命が残り少ないことを知り、それをぱあっと使ってしまおうと、三月に人形作成を依頼します。
三月のお弟子さんがそのお店に顔を出すと、幼い少女が幸せそうに微笑んでいます。
お店に行くたびにその子は成長し、とても美しい娘になります。
ある日、二人は見つめ合いながら、お弟子さんは「なんかわかった、どれがほんとうの君?」
と問うと、少女は「どれも全部私」と答えます。
そして、美しい笑顔で一言を残し、ぱっと消えてしまいます。
「いい男におなり」
その少女が消えるころ、老いた芸妓さんは、幸せそうに微笑みながら生涯を閉じます。

こんな人生の使い方もありかな、なんて思います。
「全部私」
幼い頃のたどたどしかった頃、思春期の悩みいっぱいの頃、社会に出て悩みながらも一生懸命に生活する頃、やがて老いて身体の自由が失われて行く頃、
全部形は違うけれど、全部同じ私

今でも私の本棚に並ぶこの本、中古本でもあまり見ませんが、私はとても大好きな作品です。

美しいお人形にも、それぞれ人生、そして、それぞれの悩みがあるのでしょうね。

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