前回の記事「『墓マイラー』という言葉をご存知ですか?」で、歴史上の人物のお墓のこと、「墓マイラー」のことを紹介させていただきましたが、今回はこれに関連して、1冊の本を紹介させてく
「偉人たちのカルテ 病気が変えた日本の歴史」篠田達明 (著)
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著者であり医師でもある篠田達明氏は、「歴史上の偉人たちが人間ドッグの待合室に集まったらどうなるだろう、待合室でお互いの持病を嘆きながら、心電図やレントゲン撮影の順番待ちをする、そこで彼らはお互いどんな会話をし、どんな態度をとるのか、意外と気が合ったり、やっぱりそっぽを向いていたりするのだろうか、そういう姿を思い描くのが楽しいと思い、本書を著した」と、あとがきで述べておられます。
私、こういうの大好きです。
歴史上の偉人たちが、とても身近な存在に感じられませんか?
彼らだって、同じ人間=ホモ・サピエンスなのです。
この本は、歴史上の偉人たちを悩ませた病気を、現代医学の視点で分析していきます。
歴史的な記録を基に、それがどういった症状で、どういった病気にあてはまるのかを診断し、さらにそこから何がわかるのか、現代ならどういう治療ができるのか等、様々な角度から検証します。
参考までに、カルテを2例紹介させてください。
◇藤原(中臣)鎌足は脊椎損傷がもとで急死?
大化の改新で有名な藤原鎌足ですが、669年落馬が原因で体調を崩し亡くなったとされています。
前回記事「『墓マイラー』という言葉をご存知ですか?」でも紹介させていただいた阿武山古墳(大阪府)に埋葬された人物は、脊椎に損傷がみられ、肋骨3本、上腕骨を骨折、さらに脊椎骨のX線写真では、胸椎の脱臼骨折も確認、脊椎は一度断裂すると二度とつながらないため、下半身不随となったと考えられます。また脊椎の挫滅は、呼吸麻痺と過高熱をおこし、重篤な呼吸、循環、自律神経の障害が併発、打ち所が悪ければ血圧が低下し、ショック状態に陥り、数日を経ずして死に至ります。これは、記録として残る藤原鎌足の死の状況と一致します。
◇藤原道長は糖尿病の合併症に苦しんだ?
平安時代中期、摂政・太政大臣として権力の座につき、
「この世をば わが世とぞ思う 望月の かけたることも なしとおもへば」
とわが世の春を謳歌していた藤原道長ですが、この少し前頃から、しきりに喉の渇きを訴え、連日大量の水を飲むようになっていました。また、それまではでっぷりと太っていたのが、この歌を詠んだ頃には羸痩(るいそう:やせ衰えることで、医学的には標準体重より体重が20%以上少ない状態)が目立ち、体力も著しく低下していました。さらに、藤原実資が記した日記「小右記」には、「汝の顔がよくみえぬ」等と視力障害を訴える様子が記載されています。
これらは糖尿病によくみられる症状で、道長のケースもこれに相当すると考えられます。さらに糖尿病により免疫力が低下したとみられる道長は、背中のカルブンケル(皮膚の深部に細菌等の影響で膿が入った塊が形成される状態)に悩まされ(「小右記」に記載あり。)、やがて病原菌が血中に回り、敗血症と思われる症状を起こし、死に至ります。
道長の病歴カルテは、糖尿病がいかに進展するかを如実に示した例で、糖尿病の自然経過例、放置例の典型ともいえるそうです。
また、道長はパニック障害と思われる胸病発作を度々起こしています。
他にも、聖徳太子、平清盛、源頼朝、足利尊氏、武田信玄、豊臣秀吉、加藤清正、真田昌幸、徳川家康、島津斉彬、岩倉具視、、、等、各時代の錚々たる偉人の方々のカルテが、とても分かりやすい言葉で紹介されています。
人物や、歴史的な出来事、文化、背景等にも触れられており、歴史に詳しくない方も楽しめる一冊です。
サイズは219ページの文庫本サイズで、軽く持ちやすく、通勤通学の合間、休憩時間、待ち合わせ、就寝前等、様々なシーンで読みやすい本だと思います。
病気やケガに悩まされるのは、今も昔も同じです。
また、病気やけがは、それが偉人であろうと、私たちのような凡人であろうと、平等に容赦なく襲いかかります。
あなたの好きな偉人は、日々どのような体の不調に悩まされ、命を落とし、そして、今の医学があれば、どのような治療を行うことができたのでしょう?
歴史上の偉人たちを身近に感じることができる、おすすめの一冊です。
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